2008年05月03日

女房への伝言

 名人戦の第一局が近づいたある日、私は女房がいないときを見計らって、子どもたちを三人を集めた。子どもといっても上の娘二人は適齢期で、息子は高校二年生である。(平成五年当時)。
「お前たちに言っておきたいことがある」そう前置きして居住まいを正した。
「これは、絶対にお母さんには内緒だからな。お父さんは、これまでいろんなことがあった。わりあい順調に来た人生だと思うが、いちばん運がよかったと思っていることを、今日はお前たちにいっておきたい」
子どもたちは、大事な名人戦を前に何事だろうと、黙って聞いていた。
「それはな、お前たちのお母さんと結婚できたことだ。だけど、これは絶対お母さんに言うなよ、いいか」
 結婚の経緯は先にも述べたが、とにかくそれだけ言って固く口止めした。しかし、「言うな」と言われたことほどしゃべりたくなるのが人情で、女房には、その日の夕方のうちに、三人の口からそれぞれ個別に伝わった。
 なぜそんなことをしたかと言えば、勝負に最も影響するのが、カミさんの精神状態だからである。お互いのストレスが溜まらない、心が落ち着いている、そして家の中の空気が円いということが、ひじょうに大切なのだ。

米長邦雄「運を育てる−肝心なのは負けたあと−」より


posted by sken at 06:15| ☔| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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